岡山地方裁判所 昭和62年(ワ)122号 判決
原告
松本豊子
被告
今井節子
主文
一 被告は原告に対し一五三一万七八八六円及び内一四三一万七八八六円に対する昭和五八年一一月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告は原告に対し二〇四〇万九四八七円及び内一九四〇万九四八七円に対する昭和五八年一一月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
(被告)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
(請求の原因)
一 昭和五八年一一月二日午後九時三五分頃岡山県赤磐郡瀬戸町下五五〇番地先県道上において、被告運転の原動機付自転車(山陽町い八一八三、以下被告車という。)が東方から進行してきて道路端に佇立していた原告に衝突し、原告は道路脇の用水路に転落し、右大腿骨頚部骨折の傷害を受けた。
二 被告は被告車の運行供用者である。
三 原告の損害は次のとおりである。
1 治療経過
原告は前記治療のため宮本整形外科病院に昭和五八年一一月二日から昭和五九年六月三〇日まで二四二日入院し、昭和五九年七月一日から昭和六〇年五月一三日まで通院(実日数七日)した。
しかし、症状が悪化し、右大腿骨骨頭が壊死状態となり、岡山労災病院で右変形性股関節症と診断され、同病院に昭和六一年二月一七日から同年六月五日まで一〇九日間入院し、同年一月二四日と同年六月六日から同年七月二三日まで通院(実日数三日)した。
原告は前記病院入院中の昭和六一年二月二六日右股関節に人工股関節置換の手術を受け、同年七月二三日一下肢の三大関節中の一関節の用を廃する後遺障害を残して症状固定と診断された。
2 治療費 一七五万五三八六円
3 付添看護費 三万八五〇〇円
入院期間一一日分について一日三五〇〇円の割合による額が相当である。
4 入院雑費 三五万一〇〇〇円
入院期間三五一日について一日一〇〇〇円の割合による額が相当である。
5 通院交通費 一万三二〇〇円
通院日数一一日について一日一二〇〇円の割合による額を要した。
6 休業損害 五八六万八六九〇円
原告は本件事故当時六四歳の家庭の主婦であつたが、事故当日から症状固定日である昭和六一年七月二三日まで一〇五五日間働くことができず、六四歳の女子の平均賃金である月額一六万九二〇〇円の割合による損害を受けたことになり、その額は五八六万八六九〇円(169,200×12÷365×1,055)となる。
7 逸失利益
原告の前記後遺障害は自賠法施行令二条の後遺障害別等級表八級七号に該当するから、原告は前記症状固定日から六年間六六歳の女子の平均賃金である月額一六万五三〇〇円の四五パーセントを失つたことになり、中間利息を控除すると四五八万二七一一円(165,300×12×0.45×5.134)となる。
8 慰謝料 八五〇万円
入通院期間分二五〇万円、後遺障害分六〇〇万円が相当である。
9 弁護士費用 一〇〇万円
10 損害の填補 一七〇万円
右2ないし9の合計額は二二一〇万九四八七円となるが、一七〇万円の弁済があつたのでこれを控除すると残額は二〇四〇万九四八七円となる。
四 よつて原告は被告に対し右損害残額二〇四〇万九四八七円及び9の損害一〇〇万円を除く一九四〇万九四八七円について昭和五八年一一月二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する認否)
一 請求原因第一項の事実は否認する。被告運転の被告車は原告のそばを通過したのみで原告には衝突していない。
二 同第二項は認める。
三 同第三項は知らない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 いずれも原本の存在と成立に争いがない甲第七ないし第一〇号証(但し第九号証は弁論の全趣旨によつて成立を認める。)、成立に争いのない甲第一一号証、証人難波恒人の証言、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、被告は昭和五八年一一月二日午後九時三五分頃被告車を運転して岡山県赤磐郡瀬戸町下五五〇番地先の県道にさしかかつたが、右前方に気をとられて、進路前方を注意しないまま、時速約三〇キロメートルで進行し、折から進路前方の道路左端に犬を連れて佇立していた原告を約九・六メートルに接近して始めて発見し、右に転把し、急制動したが、間に合わず、被告車を原告に接触させ、原告は道路脇の用水路に転落し、右大腿骨頚部骨折の傷害を受け、被告は接触地点から約一・五メートル前方の地点に転倒したことが認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果(第一、二回)部分は前掲各証拠に対比して措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 被告が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。
三 原告の損害について検討する。
1 治療経過
いずれも成立に争いのない甲第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八号証、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。
(一) 原告は前記治療のため宮本整形外科病院に昭和五八年一一月二日から昭和五九年六月三〇日まで二四二日間入院し、昭和五九年七月一日から昭和六〇年五月一三日まで通院(実日数七日)した。
(二) その後症状が悪化し、右大腿骨骨頭が壊死状態となり、岡山労災病院で右変形性股関節症と診断され、同病院に昭和六一年二月一七日から同年六月五日まで一〇九日間入院し、同年一月二四日と同年六月六日から同年七月二三日まで通院(実日数三日)した。
(三) 原告は右病院入院中の昭和六一年二月二六日に右股関節に人工股関節置換の手術を受け、同年七月二三日一下股の三大関節中の一関節の用を廃する後遺障害(自賠法施行令別表八級七号に該当する。)を残して症状固定となつた。
2 治療費
前掲甲第一二号証の二、第一三号証、第一四号証の二、三、第一五号証の二、第一七号証の一、二によると原告は前記治療費として一七五万五三八六円を負担し、同額の損害を受けたことが認められる。
3 付き添い費
前掲甲第一二号証の一と弁論の全趣旨によると原告は前記入院期間中の昭和五八年一一月一五日から二五日までの一一日間付き添いを要し、一日三五〇〇円の割合による三万八五〇〇円の損害を受けたことが認められる。
4 入院雑費
前記入院期間三五一日について一日一〇〇〇円の割合による三五万一〇〇〇円をもつて相当な損害と認める。
5 通院交通費
原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると原告は前記宮本整形外科病院通院交通費として一回六〇〇円の割合による七回分四二〇〇円及び岡山労災病院通院交通費として一回一一八〇円の割合による四回分四七二〇円の合計八九二〇円の損害を受けたことが認められる。
6 休業損害
原告本人尋問の結果によると原告は本件事故当時六四歳の家庭の主婦であり、夫、息子夫婦及び孫と同居していたことが認められ、前記入院期間三五一日、通院実日数一一日のほか、前記治療の経緯に照らすと原告は六四歳の女子労働者の平均賃金月額一六万九二〇〇円の五〇〇日分の損害を受けたものと認められ、その額は二七八万一三六九円(169,200×12÷365×500)となる。原告は右額を超える額の損害を主張しているが、前記認定のとおり宮本整形外科病院の通院治療期間は一年近くになるが、その間の実治療日数は七日に過ぎず、又、同病院の治療終了から岡山労災病院の治療開始まで約七か月あり、その間治療を受けた証拠もないことなどからすれば、原告の右主張は採用できないところである。
7 逸失利益
原告は前記後遺障害により原告主張のとおり前記症状固定日から六年間六六歳の女子労働者の平均賃金月額一六万五三〇〇円の四五パーセントを失つたものと認められ、中間利息を控除すると四五八万二七一一円(165,300×12×0.45×5.134)となる。
8 慰謝料
前記原告の受傷、後遺障害の程度、内容のほか、本件に顕れた一切の事情に照らし、傷害分一五〇万円、後遺障害分五〇〇万円の合計六五〇万円を相当と認める。
9 損害の填補
前記2ないし8の合計額は一六〇一万七八八六円となるが、一七〇万円の損害の填補があつたことは原告の自認するところであるから、これを控除すると右残額は一四三一万七八八六円となる。
10 弁護士費用
右損害残額及び本訴の経緯に照らすと原告主張の一〇〇万円をもつて相当と認める。
四 以上の次第で、原告の請求は前項9、10の合計一五三一万七八八六円及び9の一四三一万七八八六円について本件事故の日である昭和五八年一一月二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、民訴法八九条、九二条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 梶本俊明)